ひとり句会:夏
赦されてある雨の庭草茂る
ゆるされてあるあめのにわくさしげる
海月ゆれてシェーンベルクのひと唸り
くらげゆれてシェーンベルクのひとうなり
「ペレアスとメリザンド」の方な。
そのあとはもの言わぬきみ冷奴
そのあとはものいわぬきみひややっこ
「そのあと」にすぐに冷奴食べるのもどうかと思うけど。
短夜や親指で打つI Miss You
みじかよやおやゆびでうつアイ・ミス・ユー
自分で言うのもナンですが……「おーいお茶」の俳句みたいだ。
氷屋の店先犬の鼻濡れて
こおりやのみせさきいぬのはなゆれて
写実!
いまここの時機を逃して更衣
いまここのじきをのがしてころもがえ
さくらんぼうたまたまそばにいただけさ
さくらんぼうたまたまそばにいただけさ
♪「勝手に好きになーった」はないでしょう〜、だ。
ケータイの灯に迷い飛ぶ夏蛾かな
ケータイのひにまよいとぶなつがかな
「おーいお茶俳句」第2段。
冷酒や濃き陰を踏む正午過ぎ
ひやざけやこきかげをふむしょうごすぎ
荒梅雨や五弦は熱く撓みゆく
あらづゆやごげんはあつくたわみゆく
五弦=ギター、ですね。
朝刊のインクの匂い夏未明
ちょうかんのインクのにおいなつみめい
梅雨寒し犬と眠れる台所
つゆざむしいぬとねむれるだいどころ
梅干して空ばかり見る今日明日
うめほしてそらばかりみるきょうあした
サイダーの泡恋をしてジンときて
サイダーのあわこいをしてジンときて
あなたがジンとくる時は、わたしもジンとくるんです。
夜の果て裸は人の果てなりや
ようえのはてはだかはひとのはてなりや
左手はまだ痺れおり鰺さばく
ひだりてはまだしびれおりあじさばく
髪洗う生まれた時の姿勢して
かみあらううまれたときのかたちして
「髪洗う」って夏の季語が好きなのです。
息止めて女のかたちで髪洗う
いきとめておんなのかたちでかみあらう
溺れゆくおんなの気持ち桜桃忌
おぼれゆくおんなのきもちおうとうき
死ぬ時はひとりで死んでね。
黒南風や耳朶ひりひりと舐めてゆく
くろはえやじだひりひりとなめてゆく
さよならもさらわれてゆく土用波
さよならもさらわれてゆくどようなみ
朝顔の陽に向かいたる産毛かな
あさがおのひにむかいたるうぶげかな
梅雨寒やひとりで寝るは寝るでなし
つゆざむやひとりねるよはねるでなし
【原典】ひとり寝るのは寝るのじゃないよ枕かかえて横に立つ(都々逸)