静寂と月光

発熱する物体、しんしんと冬籠
はつねつするぶったい、しんしんとふゆごもり


終電の片手袋や逢わぬ恋
しゅうでんのかたてぶくろやあわぬこい


マスクして己を吐いて吸っている
マスクしておのれをはいてすっている




阪神淡路大震災 追悼句

寒月やいのちの満干いくたびか
かんげつやいのちのみちひいくたびか

静寂と月光

切干の如く我が身を湯に放つ
きりぼしのごとくわがみをゆにはなつ


旦那さんについて四十の残り福
だんさんについてしじゅうののこりふく


真夜中の蛇口気になる寝酒して
まよなかのじゃぐちきになるねざけして

静寂と月光

新年詠


去年今年グラスに残す金の泡
こぞことしグラスにのこすきんのあわ




名も知れぬ女叱りて初寝覚め
なもしれぬおんなしかりてはつねさめ


待人は来るのそれとも初みくじ
まちびとはくるのそれともはつみくじ

羽良上詠月に寄す。

羽良上詠月に寄す。




臆面なく愛だの口にして良夜
おくめんなくあいだのくちにしてりょうや


末枯れを月の薄刃で削いでいる
うらがれをつきのうすばでそいでいる


露のよやこよい名で呼び名で呼ばれ
つゆのよやこよいなでよびなでよばれ

IN THE BED

夏風邪の病牀にて。




病臥せる寝耳に光る露の玉
びょうがせるねみみにひかるつゆのたま

徒歩で出る救急口や鰯雲
とほででるきゅうきゅうぐちやいわしぐも

無花果を割る怖々のちから加減
いちじくをわるこわごわのちからかげん

秋の蚊がマンション九階を横切る
あきのかがマンションきゅうかいをよこぎる

屋根も人もみな濯がれて秋の虹
きもやねもみなすすがれてあきのにじ

病得れば鮭の身ほぐすのも億劫
やまいえればさけのみほぐすのもおっくう

腕枕そっとはずして月と星
うでまくらそっとはずしてつきとほし